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先日、30年間近く使っている椅子の、座面の張り替えをお願いしました。

生地を選ぶ相談のために見本帳を持って我が家に来て下さったのは、その家具のメーカーの関連会社のかたで、OBでいらっしゃるとのことでした。静かな物腰のなかに、作り手としての誇りが垣間見える紳士でした。

椅子は、当時かなり贅沢をして買ったマホガニーの木材で出来ていて、張り替えをするのはこれで二度目です。一度目は模様の入った布地でしたが、今度は私の好きなオフホワイトの本革にすることにしました。しばらくの間、預けるのですが、その間はちゃんと代わりの椅子を貸して下さいます。このシリーズは、生まれてから50年間ちかく経つそうです。以来、デザインが変わっていないのは、国内のメーカーとしてはとても珍しいことでしょう。

実は、この椅子を一度粗大ごみに出していました。ちゃんと処分のためのシールも購入して剥がれないようぐるぐる巻きにして透明のガムテープを上から貼って、マンション内の、シャッターの閉まるごみ置き場所に置いてありました。ごみとして出しに行ったのは夜10時頃で、朝の8時半くらいには引き取りに来ることになっていました。大きくて重い椅子で、でも愛着もあって、思い切るために生地に鋏まで入れて、椅子にさようならと言ったのでした。代わりには、安価な北欧のメーカーの小さなものにする積もりでした。

でも、お風呂から出てシャンプーも終えた真夜中にふと思い直して、ガードマンさんにインターホンでお願いをして、手放した椅子を引き取りに行きました。家に連れて帰って来ると愛しくて、涙が溢れたのでした。コンパクトな暮らしをしたいと思ったのでしたが、なんということをしようとしていたのかと、戻って来た椅子を見て胸が熱くなりました。真夜中に付き合って下さったマンションのガードマンさんは、謝る私を見て「人の気持ちってそういうもんですよ」と仰いました。

そんな話を、張り替えをお願いする方に打ち明けると、「誰かに持って行かれなくて良かったですね」と言われました。椅子は猫脚のクラシカルな無垢の素材で、熟練した職人さんの手仕事で出来ています。ヨーロッパのインテリアの話をすると、日本は使い捨ての文化だから家具の文化が育たないと仰っていました。なるほどと思います。

上の写真は、選んだ白い革。下の写真は、3年くらい前の、パリのプレジダン・ウイルソンというマルシェにあった、張り替えの見本帳。フランスで学んだことはたくさんありますけれど、ものを大切にすることも学んだことのひとつです。この椅子は、これからもずっと一緒です。

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